RagnarokOnline
〜Dream and hope〜

1/旅立ち




此処は遠い遠い星。この星を発見した人は「ラグナロク」と名づけた。
人は其れを次なる大地とし、移住を始めていった。
気がつけば、其処にはたくさんの人であふれかえる立派な住居として成り立っていた。
人は其処で生活をし、何不自由なく人生を送っていた。

ラグナロクには沢山の都市が存在する。
其の中でもプロンテラは首都になる大都市である。
此処には世界最強と謳われた騎士団が存在していた。
名をブレイドバンカーと言い、其処を治めていたのは騎士団長の「ルイス」
この騎士団が設立されたおかげで、街には平和が続いていた。
が、あるとき、一人の人物によってこの騎士団は壊滅させられてしまう。
騎士団といえど、世界有数の最強と謳われる騎士が何千といるこの騎士団。
其のすべてが立ち向かっても歯が立たなかったといわれていた。
其の人物は、向かってくる騎士をことごとく薙ぎ払い、
「・・・血の雨を我に見せたまえ!」とうなり、一瞬にして騎士団の人々を殺した。
のちにこれはブラッドレインとしてラグナロクの伝説として語り継がれていた。



「・・・ヒカル、ちゃんと聞いてるの?」

何時もは優しい母親の声だと分かっていたのだが、
今の言葉は何処かあきれた様子をうかがわせていた。
其れも当然だ。話を聞きながらあくびなんかしていたら、
誰だって呆れた声で話してくるに決まっているのだから。

「お母さんの話は何時も其ればかりで飽きちゃった。」

ヒカルは其れだけ言ってさっきまで正座させられてた足をほどき、
立ち上がって部屋を出ようと母に背中を向けた。
母親はそんなヒカルを見てこれだけは聞きなさいと一言だけ言う。


「あなたも私たちのように立派な聖職者になって世の中の人を助けて上げるのよ。」

母はヒカルの背中に向かって声をあげる。
ヒカルはくるりと母の方へと顔を向けて、舌をべーっと出しながら、


「いーっだ!聖職者になってお父さんのように
殺されるくらいならそんなのなりたくないもん!」


ヒカルの両親は共に聖職者という職業についていた。
母と父は同じ教会についていて、其処で出会って恋に落ちたという。
それからずっと両親は聖職者として活動をし、教会だけでなく、
街の人々からも慕われる有名な聖職者として存在していた。
が、あるとき、負傷した盗賊を父が治癒したのだが、
其のとき、盗賊は治癒した体で父に刃を向け、父は其のまま刺され、
死んでしまったのだ。母はそんな父をほこりに思っているのだが、
ヒカルは治癒しなければ今も生きていたのにと嘆いていた。
ヒカルが聖職者になりたくないという理由は父の行動にあったのだと思う。
人間誰しも自分が死ぬなんて事を考えたくはないし、
実際問題死にたくないと考えるモノだ。
其の話を何時だったか、母に聞かされたときに聖職者と盗賊を嫌いになってしまった。
そんな盗賊なんて職業を助ける父も理解出来なかったし、
助けてくれた命の恩人をいとも簡単に殺めてしまう盗賊にも理解が出来なかった。

・・・そんな日々が何年か続いた。
顔をあわせるたび、時々母親は父の話や、ブラッドレイン等の歴史をヒカルにしていた。
そんな父を理解出来なかったヒカルが、そんな父をほこりに思う母を理解できなくなり、
ヒカルは家を出る事に決めた。

「此処にいてもいい加減うんざり、私は私で一人で生きていくんだから。」

自分の部屋には洋服ダンスとベッドがあるくらい。
この時代にテレビなんてハイテクな物はなく、
ラジオが主流となっていた。ラジオでは何時もプロンテラの情報が流れ、
家に居るだけでも外の様子は手に取るように分かるようになっている。
今日は何処の店が安くてあれが半額だからだとか、商業情報まで流してくれる。
ラジオの普及率は一家に一台はあるというくらいで
日常には欠かせないモノとなっている。
ヒカルはお気に入りのかばんに服とラジオを積めて、
母に家を出るからと一言だけいって、
家を飛び出していく。でもこの選択欄が本当に正しいかどうかなんて、
ヒカルにも分からない。きっと誰にもわからない事なのは分かっていた。
でも自分自身、この家にはとどまりたくなかったし、自分にも夢はあった。
お嫁さんになる、という子供ですら思わないような夢を抱いて・・・。

母に家を出るとだけ伝えて振り向かず、家を出て行った。
背中を向けて見えなかったけれど、この時の母はきっと、
悲しい表情をしていたと思う。


家から出たところでヒカルには行くアテがなかった。
友達の家に行ったところで其処は長居出来るものではないし、
きっと母親に連絡がいって家に戻されてしまう。
だから誰も知らないところまで、ただひたすらと、
自分の目の前に広がる道を歩き続けていく。

空はこれ以上ないくらい晴れ上がっている。
青い空と白い雲、其処を自由に飛びまわる小さな鳥の群れ。
この世界の平和を願うかのような天候に見守られながらひたすら歩いていく。
何処か遠く、母も知らないような場所へただひたすら。
初めて街を出た。其処には地図にも載ってないんじゃないかというくらいの、
大地が広がっている。あたりを見回してみても、何処もかしこも森で囲まれている。
一足森へ足を踏み込めば、光は閉ざされて
一瞬のうちに暗黒の世界へと変貌してしまう。
其処に救いはなく、自らが本当に孤独なのだと思い知らされているかのように。
だが今のヒカルには迷いがなかった。ただひたすら森を抜けることだけを考えていた。
これから自分の未来を築き上げるようにして、森をまっすぐと突き進む。
森の中は狭い。それでいて周りは本当に木々が生い茂っているだけ。
目印になるようなものはないし、此処で迷ってしまえば本当に抜け出せない迷宮のよう。
風も吹いていない。光も届かない。此処は本当にラグナロクとは違う別の、
何処かの星の中なんじゃないだろうか、と疑ってしまうかのようにして。
何時間程歩いたのだろうか。まだ幼いヒカルにとっては限界が見えていた。

「ふう・・・少し一休みしようかな。」

そうしてヒカルは森の木の元に腰をおろして休む事にした。
体は思った以上に疲れている。右手を挙げるだけでも辛い。
当然一度座ってしまってからは、立ち上がることなんて出来はしない。
脳が此れ以上体を動かすなと命令しているかのように其れは動くことを拒絶する。
自分以外に誰もいないこの小さな檻の中。
何かあったら其れこそ、誰にも気づかれないまま終わってしまう。
そんな状況下に置かれた事を改めて考えてしまうと、少し怖くなってしまった。
でも此処から戻る事も進むことも出来ない。
地図を見ても森の中まで書いてるわけでもないし。
ラジオの電波も此処までは届かないらしく、
ザー、という音だけで使いモノにならなくなっていた。
やる事もなく、体を動かすことを自身で拒絶させられたヒカルは
うとうとと眠りに陥ろうとしていた。


ガサッ。


そんな音が耳に入り、ヒカルは睡魔から開放される事となった。
が、同時に悪魔が頭の中をよぎり、不安になってしまっていた。
想像するのは良い事がこれっぽっちもない最悪の結末。
もしかしたらお化けかもしれない。もしかしたら怖い動物かもしれない。
良からぬ想像とは的中してしまうもの。森の陰から出てきた「音」は、
まだ小柄ながらもヒカルよりは一回りも大きい野性の狼。
グルルッ、と低い声を出しながらヒカルのほうへとじりじり近づいてきている。
そんな様子を見るだけしか出来ないヒカルはただガタガタと震えるだけ。
グオオ!という雄叫びと同時に狼はヒカルに飛び掛る。
ザシュッ、という鈍い音と共に肩に激痛が走る。見ると肩は噛まれ、
赤いペンキのような液体がドロドロと流れ、肩を中心に白い服は真っ赤に染まっていた。
そんな大量の血を見てしまい、ヒカルはどうすることも出来ず、
ただ狼に食べられてしまうのを待つばかりになってしまっていた。
誰か助けてほしい。叫んだ所で此処は孤独の森という檻の中。
誰かが通るわけでもなければ、本当に何もない絶句世界。
狼の遠吠えですら虚しく響き渡るこの森の中で、一体何を求めればいいのだろうか。
初めて「死」を恐れた。父もこんな気持ちだったのだろうか。
自分が殺されるとも思いもしなかっただろう。それなのに父はどうして
盗賊だと分かりきった人間を助けたのだろう。治癒したところで、
皆が皆感謝するわけでもないのに。其れくらい・・・分かってたはずなのに。

疲れと恐怖のあまり、ヒカルはその場で意識を失ってしまった。

あれからどれくらいの時間が流れたのだろうか。
森の中ではない何処かの暗闇の中でずっとずっと存在していた気がする。
目を開けば其処には木製の天井が空のように広がっていた。
此処は何処だろうか。天国と呼ばれるところなんだろうか。
でも其れにしては想像とはかけ離れた世界だと思う。
第一天国に天井なんて存在するのだろうか。そもそも、
天国、という世界が存在するかどうかさえ怪しいところだけど。
目を覚まして少し考えてみた。頭が痛くて体は動きそうにはない。
辛うじて動かせる首を横に向けてみると、小さないすがあって、
其処には見慣れない誰かが座っている。お母さんだろうか。
でも見ると男の人のようだし、もしかしたら、死んだお父さんだろうか。
だとするならばやっぱり此処は天国と呼ばれる異世界の中なんだろう。

ぼう、と椅子に座る人間を見て思考をめぐらせていると其の人物がくるりと振り向いた。
あまりの突然のことで少しドキッとしてしまってすぐに首を別の方角へと向けてしまう。
背中ごしでしか解らないけど、きっとその人は笑ったと思う。


「目が覚めたかい?」


声はそういって私に話しかけてきた。
私は其のまま顔を向けずにこくんと頷いた。
其れは良かった、といってドアが開く音がした。何処かへ出ていくようだ。
私はそっと首を元の方へと向けると、其処には役目を失った椅子だけが目に映るだけ。
何もする事がなくなった、どうして私が此処にいるのかも解らない。
私は思考を巡らせてみた。そうだ。私は森の中に居たはずなんだ。
其処で狼に襲われて肩を噛まれて・・・。


バタン。


ドアが開く音がして私の思考は閉ざされる事になった。
其処には白衣を着た男の人がにっこりと笑って立っている。
髪は先ほど見た天井と同じ茶色をしている。綺麗に整った其の髪は、
見ているだけで其の男の人を清潔だと思わせてしまう。
しばらくそんな姿に見とれていると男は口を開いた。


「いやぁ、びっくりしたよ。丁度薬の材料が切れて森へ行ってたら、
君が狼に襲われていたんだから。全身血まみれであわてたよ。」


言葉とはうらはらに笑みを浮かべながら話す男には、
本当に慌てたのかどうかも解らない様子だった。
でも血まみれだったのは事実だし、この男の人がその場を
助けてくれた事にも違いない。ああ、だったらさっきの考えにも辻褄がいく。
狼に襲われて気を失ってしまったところをこの人が助けて保護してくれた。
だとすればここは天国でも何でもなく、この人の家。
この人は死んだお父さんでも何でもなく、ただの赤の他人なんだ。
よく見れば肩の傷は完全にふさがっている。でも服は真っ赤に染まったまま。

「おなか、すいてない?パンとスープを持ってきたんだけど。
良かったら、熱いうちにどうぞ。」

そういって男は何処から持ってきたのか、私の寝ているベッドの横に、
小さなガラスのテーブルをもってきて、
其の上に白いお皿に丁寧に置かれたスティックパンと、
可愛い器に入れられた白いスープを置いた。
カシャン、と小さな音を立てておかれた其れは私にとっては贅沢なものに見えた。
家を出てから何時間経ったのかはわからないけれど、おなかがすいていたのは事実。
今は何も考えないで、目の前におかれた御馳走を食べる事にした。


「あはは。」


そんな声が耳に入る。私は食べ方が雑だったのかと思って少し赤くなってしまった。
すると男は、

「よっぽどおなかがすいていたんだねえ。
見慣れない服装だね、んー。服装からして・・・、君はアルデバランから来たのかな?」

私は一瞬見透かされた気がしてドキリとした。
私の住んでいた家はアルデバランという魔法都市だ。
其処は魔法に栄えていて、街の中央には魔術師が通う施設があった。
街を歩いていても魔術師・・・マジシャンと呼ばれる職業の人々と会う事もあったし、
時々街の中ではお互いの魔法を見せようと魔法が飛び交う事もある。
地面に火柱がたったり、火が出たと思えば大量の水があふれてきたり。
どうみても非現実的なことばかりだったが、現に目の前で見てしまったのだから、
其れは現実の物として存在してしまう事になる。
暫く沈黙していると男は続けて言う。

「僕も薬の研究なんかでアルデバランにはよく行っていたんだよ。
あそこは魔法の技術が本当に一流で、薬の勉強も出来たからね。
私が扱う薬は魔術師が使う魔法の原理と良く似ているから、
本当に参考になる場所だったんだよ。
まぁ、本業は聖職者といって、魔法で人々を助けることなんだけどね。」


淡々と語る姿を私はただただぼう、と見つめる事しか出来なかった。
気がつけば目の前に出されたパンとスープは跡形もなく消えていた。
そう、まるでブラッドレインのように。
先ほどまでパンとスープを固定させる役目を担っていた食器は、
其の役目を果たし、ただ其処に在る邪魔なモノとして存在していた。
話の中で気になる単語があった、そう、「聖職者」という名前。
私の両親は共に聖職者であって、父は聖職者になったせいで殺されてしまった。
母はそんな父を尊敬していたし、今もまだ聖職者として活動している。
だとすればこの人も両親ともしかしたら関わりがあったかもしれない。


「あなたは私の両親をご存知なのでしょうか?
母がメル、父がブランという名前なのですけれど。」


そう言うと男はああ、と言ってポンッと手を叩く。


「知ってるよ。あの有名な聖職者夫婦。知らない人は居ない位有名だからね。
こんなアルデバランから遠く離れた一軒家にですら情報が届くくらい。
かの有名なブラッドレインにも参加していたと聞いているよ。
其の持ち前の能力は戦う騎士を治癒し、助けていたんだよ。
でもあのブラッドレインは生き残りが本当に僅かで、多分、二人じゃないかな。
一人は騎士団の中でもトップに近いカイという男性。
もう一人は其のカイの下につくサラという女性。
ん、という事は君も聖職者なのかい?」


独り言でも言ってるかのように語りだす男は最後に私に質問をしてきた。
聖職者であるかどうか。でも私は聖職者の子供だというだけで、
実際には聖職者についての勉強は一切していないし、聖職者になるつもりもない。
父が聖職者という理由だけで殺されてしまうのなら、私はなりたくなかったから。


「私は聖職者の子供ですが、聖職者にはなりたくないんです。
父のように殺されるくらいなら私は聖職者なんて嫌いですから。」


そういって指摘されたわけでもないのに何処からか怒りがこみ上げてしまい、
口調が少しキツくなってしまったのは冷静ではない自分でも解ってしまう。
そんな態度に男は何を言うでもなく、また話はじめる。


「お父さんの最期も知ってるよ。盗賊を助けて其の盗賊に殺された、と。
君にとっては残念な話だけど・・・。でもお父さんは素晴らしい人だったと思う。
いいかい?世の中には色んな人がいるんだよ。
君の両親のように世の中に慕われて表に出て生活を営める人間も居れば、
私のようにここでひっそりと生活をする人間も居れば、
盗賊のように人の物を盗って行くことでしか生活が出来ない人間だってね。
でも誰だって命を持った人間だというのは同じ事なんだよ。
だから君のお父さんは盗賊だと解っていたとしても、
同じ行動をとったと僕は思うよ。そういう人間だったから、君の両親は、
皆に慕われていたんだと思うよ。聖職者だから、ということではなく、
誰かの為に術を使うという事は、人間には難しいことなんだ。
色んな感情を持った人間ってのは、本当に厄介な生き物だし、
誰だって自分が危険だと解れば優先順位は変わってしまう。
聖職者の中にも、自分が殺されると解れば其のまま傷ついた人間を
見殺しにするものだって沢山存在しているんだから。」


私は考えた事もなかった。ただ死んだという事実だけを母に押し付けて。
そうだ、どんな姿をしていたって、どんな生活をしていたって、
私と同じ人間というのは変わらないんだ。
盗賊だったその人だって、本当は盗賊にはなりたくなったんだと思う。
状況が状況で仕方なく盗賊をするはめになっただけかもしれないし。
そっか、そう考えたら、お父さんって本当に凄い人なんだ。
母がほこりに思うって、毎日飽きる程お父さんの話をしていたことも、
今なら少しだけ理解出来るかもしれない・・・。


「そうですね。そういわれると、聖職者って、お父さんって立派だったんだって、
少し解った気がします。ありがとうございます。」


私は男にお礼を言った。
お父さんがどれだけ立派だったのかを解らせてくれた事と、
見ず知らずの私を助けてくれた事も含めて。
だから私は聖職者になろうと思う。そんな立派なお父さんの後を継いで。
人を助けることの難しさ、そして人を助けるという意味も、
解った気がするから。だから私は聖職者になりたいと思った。
動機は其れだけで十分な気がした。


「私、聖職者になろうと思います。」


気がつけば男に一言そう言っていた。
男に言ってもどうなるわけでもないって解っていたけれど。
でも、誰かに自分の決意を話しておかなければならないと思ったから。
だからこの人の家、この部屋が、私が聖職者になると決めた場所になるんだ。
此処から私の聖職者としての道が始まるんだって事。


「そうか、其れなら此の侭北へ歩いて『プロンテラ』に行くといい。
其処に聖職者の施設、大聖堂があるから。」


男は聖職者の施設の場所を教えてくれる。
この人も今でこそ立派な聖職者だけど、
お母さんもお父さんも、この人も其の大聖堂から出発したんだろう。


「聖職者は誰にでもなれるってわけじゃない。
生まれもっての才能、そして特別な存在でなければならない。
アルデバランの魔術師施設に通う人間も、また生まれもっての才能、
そして特別な存在をした人間ばかりなんだよ。
でも君には其の素質があると思う。其の瞳を見れば何となく、だけどね。
何も邪魔されることのない、まっすぐで綺麗な眼をしてる。
君ならメルさんのような、偉大な聖職者になれると信じてるよ。」


そういってにっこり笑った聖職者は無邪気な子供のように
一点の曇りもない笑顔を見せてそう言った。
私はまたお礼を言って、聖職者の家を後にし、
聖職者施設「大聖堂」のあるプロンテラへと向かう。



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