RagnarokOnline
〜Dream and hope〜
2/盗賊エルク
聖職者の家から聖職者になる為に、プロンテラへと歩いている。
少し前に狼に襲われたけれど、そんなことはまったく知らないかのように、
空は家を出たときと同じようにして、晴れ上がっていた。
空は無表情なんだ。どんな事が起こったとしても。
たとえ其の空の下で誰かが死んでしまったとしても。
其の表情を一切変える事なくただ世界に「色」を届けている。
空は自分の役割を果たしているだけに過ぎない。
だから私が空にあれこれ言ったところで、
空は其れ以下、其れ以上の働きはしないのだ。
そんな事は解っているのだけれど、空を見上げてしまう私がいた。
何だか自分の気持ちを察してくれる、そんな気がしてしまうのは、
きっとこの空が何の曇りもない澄んだ瞳で見つめてくるからなんだろう。
「さあ、此処を超えればプロンテラにつくはず。」
私は足早に目の前に広がる道を走っていた。
もうプロンテラとは眼と鼻の先に近づいていたから。
早く聖職者になりたい、ただ其の一心で私は走るという行動に出た。
森の中にいたときとは違ってとても体が身軽になっている。
其れもきっとあの聖職者と、この晴れ上がった空のおかげなんだろう。
首都プロンテラ。
其処には沢山の人であふれかえっていた。
どこもかしこも人人人。此れが何時も通りなのだとしたら、
毎日がお祭り騒ぎのよう。景色を見ようにも、
此れだけの人に囲まれていたら住居のひとつもまともに見えはしない。
だからきっとこの街で起こる些細な問題は、
あの空のように何事もなかったかのようにかき消されてしまうんだろう。
街の出入り口には案内板がひっそりと立っていた。
きょろきょろさせていたから見つかったものの、普通に通り過ぎていたら、
きっと見つけることは出来なかっただろう。其れだけひっそりと立っている。
この街に住んでいる人にとってこの案内板というのは殆ど役立っていない。
こうして私のように訪れる旅人にはとても有難い物だと思う。
案内板を見るとどうやら此処は南口らしい。
プロンテラは大きく十字のような街をしている。
このまま北へ向かえば街の中心、噴水がある場所へと出られる。
其処から東へ行けば東口、南へ戻ればこの場所に、
北へ行けば北口、西へ行けば西口、とそれぞれ出れるようになっている。
目的である大聖堂は丁度東口と北口の間にあるらしい。
私はかばんを持ち直すと、大聖堂のある北東へと足を進める。
時々人にぶつかる事もあったけれど、其れはこの人ごみの中だから。
ぶつかった人も「ごめんなさい」と言う間もなく
人ごみに紛れて誰だったのかも解らなくなってしまう。
やっとの思いでたどり着いた其処はまだプロンテラ中央の噴水の場所。
まだまだ・・・と思って顔を上げてみると、其処には綺麗な噴水があった。
見るまでは何とも思わなかったただのこの噴水は、
空に向かって水を勢い良く噴射しており、太陽の熱で霧状となった水は、
其のまま地面へ落ちることもなく蒸発してしまっている。
そんな霧の中には綺麗な7色の橋が架かっていた。
其れだけでほんのり心が癒される気がした。やっぱりきて良かったと思う。
そんな噴水を見て、大聖堂に行かなければならないことを思い出し、
かばんをまた持ち替えて大聖堂へと急いだ。
プロンテラ北東大聖堂。
大聖堂前の扉はとても大きく、鉄の門になっていた。
だというのに非力な女の子が軽く押しただけでいとも簡単に開いてしまう。
実は鉄は見せかけではりぼてなんじゃないかと思うくらいだが、
裏から見て触ってみても、其処には鉄の反応しか見られなかった。
大聖堂に入ると中の構造は小さなプロンテラを其のまま押し込んだようになっている。
細い通路をまっすぐ進むと、途中で十字路に差し掛かる。
其れを右に行けば聖職者の神父様が居る場所へ出られ、
其のまままっすぐ進むと聖職者用品が売られている商店、
そして其処には結婚式場が備え付けられている。
十字路を左に行くと其処には母と同じプリーストの試験が受けられるようにもなっていた。
もちろん此れらは知っていたわけではなく、
大聖堂の外にあった大聖堂内部案内板の知識だ。
大聖堂、というからどんな大きさかと思えばそうたいした大きさではなく、
それでいて無駄のないつくりになっていた。
私は聖職者の初歩段階である「アコライト」になる為に、十字路を東に曲がる。
部屋に入ると其処にはかわいらしい格好をした女性がいた。
私は其の女性に話を聞いてみる事にした。
「あの、私、アコライトになりたいのですが、どうすれば良いでしょうか?」
すると其の女性・・・いや、聖職者はにっこりと微笑むとこの先に
神父様が居るので其処で話を聞くようにと案内をしてくれた。
私は言われるように神父様が居る場所へと足を進める。
「ようこそいらっしゃいました。おや、まだ幼い方。
しかし、其の瞳は強い意志を持っておられるようですね。
さて、本日はどのような御用件で参られたのです?シスター。」
言葉遣いがとても聞きなれない、何とも神秘に満ちた感じ。
難しい言葉は使っていないはずなのだけれど、
其れは此処の雰囲気と神父様というので其れが強調されてしまったのだろう。
私は単刀直入に用件を伝えることにした。
「あの、私、聖職者になりたいのです。
私に聖職者の修行を受けさせて頂けませんか?」
本当に簡単。ただ用件だけを述べた。
すると神父はにっこりと微笑み、私にこう言った。
「あなたは幼いながらも強い意志を持った方ですね。
あなたを見ていると此処へ来た二人の子供を思い出すようです。
今や世界に名を広げた聖職者夫婦を見ているように。
良いでしょう。あなたに聖職者の試験を行って貰います。」
きっと其れは私の両親の事を言ってるんだろう。
其れよりも、私は聖職者としての修行・・・ではなく試験を受けられるらしい。
もちろん此れに失敗すれば聖職者としての修行も受けられないのだろう。
私は申し出を受理し、試験内容を教えてもらう事になった。
試験内容とはとても単純なものだった。
プロンテラ北西に位置する別の聖堂があり、其処に神父様が居るので、
その人に会い、報告をするという事だった。正直、
此れが何の試験なのかは全くわからなかった。
ただまわるだけならば、其処らにいる子供にだって出来る事だ。
でも言われたのだから其れをこなすしかないし、
其処に何の意味がないとしてもそれを行わなければ修行は受けられない。
いや、そもそも試験と名をうっているのだから、きっと何かしらの
意味が其処には存在するのだろう。世の中に意味のないモノなどは存在しない。
あるとするならば・・・其れはきっと「存在しないモノ」だけだと思うから。
神父様との挨拶を済ませて、私が早速北西へと向かう事にした。
が、其の前にどれくらいの時間がかかるかわからないので一先ず、
宿を確保する事にした。此処から一番近いのは東口。
東口に急いでいって、案内板がないかを探す事にした。
が、其処には案内板が存在しなかった。
否、過去に其処にはちゃんと存在していたのだ。
何かによって折られたようになっており、根元部分だけが無様に刺さっているだけ。
私はどうすればいいのか少し悩んだ、が、刹那。
鎧を着た兵士が話しかけてきた。
「君は此処の人間ではないね。旅の者か、何処から来たかは存じ上げぬが、
よくぞプロンテラまで参られた。何処か行きたい場所があるのならば、
私に聞くが良い。プロンテラの中ならすべて把握しておるのでな。」
要するにこの人はガイダンスを流す案内板、といった所だ。
其れは少し言いすぎか。
私は宿を探していたので、兵士さんに宿の場所を聞くことにした。
「私、宿を探しているのですが、この街の何処にあるのか解らなくて・・・。
教えて頂けますか?」
すると兵士は丁寧に教えてくれる。
「宿はプロンテラ中央の噴水があるだろう?
其処から少し東南へ歩いた所に宿の看板が出ているから、
其処を住居のほうへ突き進んだ所に建っている。」
兵士が言うには少し入り組んでいてわかりにくいらしい。
だけどそんな事も言っていられないので私はお礼を言って、
宿のある場所へと急ぐことにする。
プロンテラ宿屋。
宿も木製の作りをし、何処もかしこも木の色で染め上げられている。
寝るにはもってこいの安堵感がありそうで雰囲気も良い。
此処ならぐっすりと休めると思い。私は宿を予約する事にした。
カウンターには宿屋の店員と思われる人が二人ほど立っている。
どちらも20代位の女性の人である。とりあえず、
私は店員さんに話しかけ、宿をとりたいと申し出る。
「すいません。此処に・・・取り敢えず一泊したいのですが、
お部屋のほうは空いてます?」
すると店員さんは手馴れた口調で淡々と部屋が残っている事を教えてくれる。
そして店員さんは部屋まで案内してくれた。
カウンターの隅に置かれた階段を2階へと上り、其処にはいくつものドアがあった。
恐らく此処のひとつひとつのドアが宿になっていて、旅人は此処にとまるのだろう。
私が案内された部屋は2階に上がって突き当たり一番奥となった。
距離は其処までなく、何も感じないくらいについてしまう距離だ。
部屋数も其処まで多いわけでもないので、恐らくそのせいだろう。
部屋には灰皿、ラジオ、タンス、観賞用植物の小さいサボテン、華は咲いてない。
其れと、寝る為に必須のベッドに、化粧用の大きな鏡が備わっていた。
一泊するにはとてももったいないかな?と思う作りになっているのだが、
周りは木製で、ほのかに木の香りがして、とても居心地が良い。
ベッドも家のとは違ってとてもふかふかでずっと眠り続けたいくらい。
でもそんな事はしていられない。
部屋を確認してから颯爽と私は神父様を探しに出かけた。
プロンテラ西口。
外に出るには一度西口か北口から出なければならないのだが、
大聖堂の神父様は西口から出ると近道になると教えてくれたので、
西口から出る事にした。見慣れない地形で、地図もなく、
何より一人で行く事になるので正直気が気じゃない。
でも此れも聖職者になる為。
そう思えば足は簡単に西口から外へと運んでくれた。
外に出ると其処には見たこともないくらい綺麗な景色が広がっていた。
沢山植えられたチューリップ、其れも一色ではなく、赤、青、黄色と種類は様々。
チューリップの植えられた花壇の隣には小さなパンジーが沢山植えられている。
円を描くように置かれた其の花壇の中央には白くて長いベンチが置かれている。
旅人も此処に来て此処に座って休憩をするのだろうか。
きっと気持ちよすぎて寝てしまうんじゃないだろうか。ちょっと
座ってみたい気もしたが、其れよりもすべきことがあることに気づき、
ひたすら北西を目指して歩いていく。
地図もなく、ただ自分の感覚だけで北西北西、と歩いていると。
何やら人の影が見えた。近づいて見ると傷を負って倒れている。
よく見れば其の服装は盗賊専用の服になっている。
この人は盗賊、其れは服装を見れば明らかだ。
ゴーグルを頭につけ、動きやすい白い服を着ている。
ゴーグルをつけている、という時点でラグナロクの人間は、
盗賊だという認識がある、盗賊側も盗賊側で、
このゴーグルをつけていると本業をこなしやすいのだとか何とか。
父は盗賊を助けて命を失った。
そんな父を私は軽蔑していた。
そんな父を慕う母をも私は軽蔑していた。
でも今目の前に傷ついて倒れている盗賊が居る。
其れでも・・・私と同じ人間・・・・。
迷うことなんてないはず。誰でも助けたいとそう誓った。
私自身も強く思っている事。ならば助けてあげるのが自然なんだ。
でも私はまだ聖職者ではなく、治癒能力なんて持っていない。
使い方だってぜんぜん解らないというのに・・・。いや。
ポーズくらいなら、母のを何度も見ていたから、解る。
このままじゃこの人は死んでしまうかも知れない。
助けなきゃ・・・私が助けなきゃ・・・!
私はみようみまねで治癒魔法「ヒール」を使って見ることにした。
両手を合わせ、目を閉じ、
「神よ、私の声を聞きたまえ。
願わくば、傷つき倒れた者へ
無償の慈悲を与えたまえ。
治癒。」
ヒールを見よう見まねで詠唱する。
不思議な事に体から白いオーロラのような気がブワッとヒカルを包み込む。
ヒールの掛け声と共に、その気は一瞬にして倒れた盗賊へと向かっていく。
ほんの一瞬の出来事。教えられたわけでもなければ、
使った事すらないヒールが私にも使えたのだ。
驚きのあまり、少し呆然としてしまったけれど、
気がつけば其の盗賊は起き上がり、何が起きたのか解らない様子で
こちらにくるりと振り返ると、私に近寄ってきた。
瞬間私は殺されると思った。
父のように、短剣で刺され死ぬんだと思った。
でも此れが間違ったことだとは思わない。
其のまま見殺しにしていたのならば、
私はきっと死ぬ事以上の苦しみを担う事になると思うから。
だから此処で殺されたってかまわない・・・!
だんだんと近づいてきた盗賊にもう目すら向けられず、
恐怖の余りグッと力いっぱい目を閉じてしまった。
すると盗賊は私に話しかけてきた。
「今のはおまえがやったのか?ありがとう。
もう少し遅かったホントに俺、死んでたと思う。
おまえは命の恩人だよ。」
そういって私は拍子抜けした。見れば私と同じくらいの年齢で、
盗賊、とは思えないような顔をしている。此れは美形だ。
同じ年代の子供が見ればきっとこの子の顔だけで惚れるだろう。
綺麗に逆立った茶色い髪は目立たず、盗賊向きであり、
其の服装に合わせられたかのような色はより一層と、
この盗賊を盗賊だと思わせる風格をしている。
私は盗賊とその場で少し話しをした。
初めて出会った人が盗賊、初めて助けた人が盗賊。
此れも何かの縁なんだと思った。
名前はエルクというらしい。私も名前を言ってまた話を続けた。
「俺の両親は偉大なる盗賊団の頭だったんだ。
でも、ある時そんな偉大な盗賊団の目の前に、
ある人物が現れたんだ。盗賊っつっても大勢いたし、
一人で勝ち目はないと誰もが思っていたのに。
俺も其処にいたんだけどね。
怖くて目を閉じて、音がしなくなったと思えば、
俺の両親も仲間も皆其の男一人に殺されていたんだ。
だから俺も盗賊を本業にして、
何時かは其の男を殺してやろうと思ってるんだ。
仇討ちをするんだ!俺は俺の両親を殺したアイツを絶対許さない!」
エルクが話した過去は、以前母に聞いたブラッドレイン騒動と似ていた。
もしかしたら同一人物かもしれない。いや、其れはきっと確実だろう。
一人でいとも簡単に壊滅させられる人間なんて、
世界中探してもきっと其の人物だけだろうから。
「エルクさん、私はあなたの考えが理解できません。
両親を殺されたからといって、あなたが其の人物を、
殺めて良いという理由にはならないのですよ?」
其の言葉にエルクは怒涛した。
「何だと!おまえに俺の気持ちがわかるもんか!
俺の・・・俺の両親が目の前で殺された気持ちなんて!
えらそうな事を言うけど、おまえに・・・おまえに・・・・なにが!」
手を拳にかえ、今にも殴りかかってきそうなくらい
ぷるぷると体を震わせて・・・其のことを思い出したのか、
エルクの声は自然と震え、いまにも泣いてしまいそうだった。
エルクの言い分もわかってはいるつもり。
私だってお父さんを殺めた盗賊が憎いもの。
だからって人を殺めていい理由になるとは、
どうしても私には思えないから・・・。
「エルクさん、私はね、幼いころにお父さんを亡くしているの。
知っていますか?有名な聖職者夫婦の父が、
盗賊を治癒し、その場で殺された事件の事を。」
エルクは其れくらいは知っている、と頷き、
其れがどうした、と怒鳴ろうとして言葉を止めた。
エルクにも理解が出来たのだろう。
其の殺された聖職者の父がヒカルの父だったという事が。
「だから・・・俺が近寄ったとき、あんなにも震えていたのか。
でもどうして俺を助けたりしたんだ。
おまえだって、親父を殺した盗賊が憎いはずじゃないか!
なのにどうして俺を助けたんだよ!言ってみろよ!」
エルク自身頭の中が整理できないでいた。
思っていた事よりも逆の事をただ連呼するだけで。
本当は、自分より強いヒカルを見て嫉妬していたのだ。
「エルクさん。私は、どんな事をしていたとしても、
私と同じ人間なのです。目の前に傷つき倒れた人がいたならば、
たとえその人がどんな経歴をもっていても、
其の後、お父さんのように殺されてしまおうとも。
助けてあげなければならないと思ったから助けたのです。
自分にはその人を助ける術があるのに、
其のまま見殺しにしてしまうなんて、そんな事・・・。」
言葉を続けようとしたがエルクに止められる。
エルクは納得してくれたようだ。
納得してくれてはいるのだが、頑固としてアイツを殺す等と喚いている。
もう一言言わないと駄目かと思ったけれど、次の言葉で私は言うのをやめた。
「でも、今は自分の大切な人を守る為に剣を振るう事にする。」
大切な人、其れが誰なのかは解らないけれど。
エルクはきっと正しい道を歩んでくれると思った。
だから私は其の後何も言わなかった。言っても其処に意味はないから。
「ヒカル、おまえアコライトになりたいんだったよな。俺が護衛してやるよ。
俺はおまえの為に剣を振るうと今決めたからな。」
大切な人、其れはこの一言で私だと言うのが解った。
嬉しかった。誰かを助けただけではなく、
こうして人の心まで浄化してあげられるということが。
其れとは別に・・・私を護ってくれるといってくれた事が
きっと、きっと一番嬉しかったことだと思う。
プロンテラの外には詳しいというエルク。
神父様の言う場所までは何なくたどり着くことが出来た。
彼は彼なりに其処までのルートの近道なんかをしっていたからだ。
一人で不安だった出発も、今エルクがついてきてくれて、
ほんのちょっぴり軽くなっていた。
プロンテラ北西聖堂。
プロンテラの北西に位置する聖堂にたどり着いた私たちは、
早速神父様に会う事にする。
てっきり聖堂の中にいるのだと思えば、神父様は、
聖堂の前に立っていた。
あのとき見た、あの聖職者のような成り立ちをして。
「君がヒカルだね。ようこそプロンテラ北西聖堂へ。
此処にくるまでに、君は聖職者にとって、
人間にとって大切な何かを知ることが出来たようだね。
私からはもう何も言う事はないだろう。
君自身がきっと一番良く知っている事だろうからね。ははは。」
そういって私の巡礼は終わった。
プロンテラに戻り、大聖堂へと急いだ。
其処には先ほどと変わらない神父様が待っていた。
「お帰りシスター。どうやら北西聖堂までたどり着けたようですね。
おや?見た所、その子は盗賊のようですが。」
そういってエルクはドキッとして剣を抜こうとした。
刹那、神父は会話を続ける。
「剣を簡単に抜いてはいけませんよ。
あなたは気づいたはずです、自分の為ではなく、
誰かのために剣を振るうということに。
あなたが盗賊であることが問題ではないのです。
だから安心してください。そして其の剣は、
隣に居る新たな聖職者のために使ってあげてください。
神の子とし、汝を聖職者として迎えいれよう。
神よ、聖職者ヒカルに神の御加護を与えたまえ。」
神父はすべてを見透かしているように話を進め、
私を聖職者として認めてくれた。
神父の言葉と共に、ヒールを詠唱したときのような、
白い光が神父の周りをボウッと取り巻き、
神の誓いを終えると其の光は私に向かって飛んでくる。
刹那。
私の服装は聖職者の服へと変貌し、
同時に体中に聖職者としての知識が入ってきた。
何も知らない、知らないはずなのに、
治癒能力の使い方が手に取るようにわかってくる。
「おめでとうシスター。
此れで晴れてあなたも聖職者として、
神の使いとして天に誓いをたてました。
後は己の術を彼と共に磨き、
聖職者としての役目を果たしてくれるよう精進してください。」
有難う御座いますと神父様にお辞儀をする。
同時にエルクもそれにあわせてお辞儀をする。
どうしてエルクがお辞儀したのかは解らないけれど、
そんな姿を見て少し笑ってしまった。
プロンテラの宿に戻り、私とエルクは情報収集に向かう事にした。
なにぶん初めて着た街だし、何もわからないままじゃ何もしようがない。
情報にはまず酒屋だ、とエルクが言うので私たちは酒場へと足を進める。
酒場についた私たちは酒場のマスターに話しを聞くことにする。
マスターが話す内容は以前母からしつこくきいていた騎士団創設のことと、
ブラッドレインに関する情報だった。
世紀200年、ブレイドバンカーという名の騎士団ギルドが創設され、
創設者はルイスという騎士。其の側近に当たるのが、
カイとサラの腕利き騎士。
何でもカイは特別な存在で、騎士団の入隊試験を断トツ1位で楽々こなしたとか。
見るものを圧倒する其の剣術は誰もが一度見てみたいと思うほどのものらしい。
だが、世紀250年に、其の騎士団はあっけなくも壊滅させられてしまう。
たった一人の男の手によって・・・、後に此れがブラッドレインと呼ばれる惨劇だ。
エルクは其の話聞いたとたんに立ち上がり、
「アイツだ、アイツに違いない!アイツにしか出来るわけがない!」
そういってエルクはまた手を拳にかえてぷるぷると体を震わせていた。
私はそんなエルクを見ていられなかった。
「エルクさん・・・。お気持ちは解ります、ですが今は堪えて・・・?ね?」
そういうとエルクは「今怒鳴ったって何もかわらねえか。」と一言発し。
また席へと座り込んだ。
其の後情報を聞き出してみるのだが、此れといって情報は得られず。
取り敢えず私が予約しておいた宿へと戻っていくことにした。
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