RagnarokOnline
〜Dream and hope〜
05/聖職者の在り方
「な・・・んだって・・・?」
エルクは再び立ち止まる、今度はゾンビと距離を置いて。
信じられるはずもないだろう。
目の前にいるこんな腐敗した人ならざる者が、
自分の命の恩人だなんて、普通は信じられる話ではない。
でも確かに言った。森の中で瀕死になった私を、
助けてくれた聖職者の事を。
きっとこの人は其の聖職者が変わり果てた姿なんだ。
だから、というわけではないけれど、
もうソレが元々人間なんだと知った以上は、
殺してはいけないんだ。そうすれば、父を殺した盗賊と、
同じ事をしているのに代わりはないのだから。
「いい加減にしろよヒカル!
こんなゾンビの何処に人を助ける能力があるってんだ!
現に俺は殺されそうになって、カイさんは、
そんな俺をかばって負傷までしてるんだぞ!
そんなヤツがおまえを助けただと?
寝惚けた事いってんじゃねぇぞ!」
エルクは私に其れだけの事を言って斬りかかろうとした。
エルクの言う事にも一理ある。
散々足手まといになっておきながらも、
戦闘には参加しないで、殺すなだの命の恩人だの。
勝手都合が良すぎる事は百も承知。
でも、其れでも殺めちゃいけないんだ・・・。
「くっ・・・!こ、此れは・・・!」
カイが言葉を発する。
エルクの声とは違う意味での怒声だ。
良く見るとカイの腕には赤い斑点が沢山現れていた。
一体此れは・・・?ゾンビに噛まれて黴菌でも混入したのだろうか。
「どうしたんだ!カイさん!」
そういって先ほどの怒りは何処へいったのか、
一瞬にして思考回路はカイさんへの心配となり、
カイさんの目の前まで走ってくる。
エルクはカイさんの傷口付近に出来た無数の赤い斑点をじろじろと眺める。
「此れは・・・!
カイさん、噛まれたときに恐らく傷口からヤツの毒素が混じったと思う。
アイツめ、噛むだけじゃなくて毒までもってやがるのか。
おい、ヒカル!おまえこの毒は治療出来ないのか?聖職者なら
出来るはずだと思うんだが、どうなんだ?」
エルクの問いに私は答えることが出来ない。
ましてやヒールだけしか使えない私にとっては、
他にどんな魔法があるのかすら知らないのだから。
「盗賊。毒治癒は聖職者の仕事ではない。
聖職者が唯一治せない状態異常、其れがこの毒だ・・・、
そして、其の唯一の毒を治せるのは、
本当は盗賊の仕事なのだけどな。
盗賊という職業が閉鎖的になった今、解毒を教えている
盗賊ギルドは恐らくないだろう。もしあるとするならば、
其処は現代の盗賊の立場をわかっていないところか、
もしくはそれでも解毒を教えているかのどちらかだろう。
元々盗賊は薄暗い場所での活動が多い為に、
暗闇を好む敵には毒素を持ってることが多く、
其れを自己で治療するために考案された技術だと言う。」
肩をぐっと抑えながらカイは話す。
其の言葉も最後の方は余程つらいのだろうか、
はぁ、はぁと息を切らして汗で顔が染められていた。
気がつけばカイは、肩だけでなく、
体中のありとあらゆるところに斑点が出来てしまっていた。
直結に言えば、毒素が体中に回りこんだということだ。
私のせいでこうなってしまった。でもどうすればいいか解らない。
カイが言ったように聖職者には毒治癒魔法は存在しない。
ならどうすれば・・・?解毒剤もないし。
ただカイが死ぬ所を見ているだけなんだろうか・・・?
もう、私はどうすればいいのか解らない。
自分が人の傷を治療する聖職者という立場でありながらも、
肝心なところでは全く役に立たないただのお荷物。
私はそんな為に二人と旅をしているわけではないのに。
「くっ・・・、体までもが痺れてきたか・・・。
流石に此れは厄介だな。情けない。」
そういうとカイはその場に倒れこんでしまった。
もう、本当にどうすればいいのか解らない。
たまらず私はその場で泣いてしまった。
「ヒカル!泣いてる場合か!
おまえが泣いたってカイさんが助かるわけでもないし。
カイさんだってそんなこと望んでいないだろう?
自分の不甲斐なさ、カイさんのためを思って、
そうやって泣いてるんだったら今すぐ泣く事をやめろ!
おまえがなりたかった聖職者ってそんなモンなのか!」
エルクの怒りは最高潮に達している。
でもこの場合、怒り、という表現は正しくないと思う。
激励・・・というのだろうか。
こんな不甲斐ない自分のせいで誰かが迷惑して、
誰かが怒って、誰かが死にそうになって。
違う、私が求めていた聖職者はこんなのじゃない。
なら、本当に泣いてる場合じゃなくて、
今私が出来る事、成すべき事を精一杯するだけしかないんだ。
「神よ、我に力を与えたまえ。
消えかかる魂を癒すことを此処に願う。
神よ、我に力を与えたまえ。
治癒。」
私の体は、エルクを助けたときと同様に
凄まじい光の束が渦巻いている。
其れはヒールの掛け声と共に、刹那、カイの元へと吸収されていく。
毒素の影響で広がりつつある新たな傷跡は
何事もなかったかのように姿を忽然と消してしまう、が、
赤い斑点はいまだに残ったままになってしまっている。
「・・・。」
それっきりカイはしゃべらなくなってしまった。
死んだと思ってしまったけれど、エルクは、
毒素の影響で気を失っているだけだと話してくれる。
私にはどうする事も出来なかった。もうだめなんだ。
何をしても、この人を助けて上げることは出来ないと。
そう、其れは確実なものへと変わって私を縛り付ける。
「・・・。」
その場で倒れこみ、私は何をすることもしなくなった。
戦意喪失。私にはもう、戦う事も出来ない。
こんな、こんな一人の、目の前に倒れた人間を、
助けることも出来ない私なんて、
存在しなければいいとさえも思ってしまう。
やりきれないこの感情は、何処にぶつければいいの?
ねえ、教えてよ・・・お父さん、お母さん・・・。
「ちぃ!ヒカルでも駄目か!
仕方ない、目の前のアレを何とかするのが先か!
そうすりゃ後で俺の知り合いの盗賊に解毒してもらうしかねえ。
多分、解毒知ってると思うんだけど・・・。」
最後に頼りない事を言ってエルクは、
ソレに立ち向かって攻撃を開始する。
私にはもう其れを見て怒鳴ることも出来ず、
ただただ、交戦するエルクとゾンビを見ているだけしか、
出来なかった。
ドゴォ!
エルクの凄まじい蹴りがゾンビの腹部に命中した。
ゾンビはよろよろと後退し始め、倒れて動かなくなってしまった。
「一先ず此れで安心だろ。
どうあっても殺すなとかいうし、実際切りかかったところで、
コイツが簡単に死ぬとも思えないしな。
だとすれば、こうして直接的な打撃をいれて、
動きを暫く封じるのがいいってか・・・。
まぁ、ほんの時間稼ぎにしかならんだろうが。
おい、ヒカル!いい加減おまえも立ち上がれ!
そんな姿、カイさんに見られたら、
おまえ本当に殺されるぞ!ゾンビじゃなくてカイさんにな!
俺がカイさんならとうにおまえをぶっ飛ばしてるぜ!
流石に俺一人じゃおまえを護りながらアイツの
動きを封じるだけなんて器用なマネできっこねえぞ!」
「いやなの!もう!
私には何も出来ないの!
私だってカイさんを助けてあげたいの!
そんな気持ち、一番理解してくれてるのあなたでしょう!?
どうして解ってくれないの!どうして・・・どうして!」
一層涙が出てきてしまった。
とんでもないことを、言っちゃいけない事を。
言ってしまったって、解ってる。
でも私も感情的になることだってある。
本当に、無力な私はどうすることも出来ない・・・。
私は倒れて気を失っているカイさんの背中に、
手を触れると、
「うっ・・・うっ・・・ごめん・・・なさい、
ごめんなさ・・・い・・・カイさん。
本当に・・・ごめんなさい。」
私はただひたすらにカイさんに謝る事しか出来なかった。
こんなこと、してる場合じゃないってこと解っている。
でもどうしたらいいのか解らない。
神が本当に・・・存在するのなら・・・。
どんな代償でも払うから・・・だから・・・、
だからカイさんを助けてほしい・・・!
ヒカルの元へ再び光が渦巻きだす。
そっと目を閉じて、両手をあわせ、詠唱を始める。
「神よ、聞こえますか。
傷つき倒れたものへ、神の力を与えたまえ。
弊害治癒。」
無意識の間に詠唱をしていた。
全く知らない魔法なのに、どうしてか唱えることが出来た。
あのころと同じ、エルクを助けたときと同じようにして。
私が流した涙はドンドン光に吸収されていく。
其の涙と同化した光は、何時かプロンテラでみた、
あの7色の虹のように色を変えて・・・。
「う・・・頭が痛い・・・・。
体が動く・・・此れならいけるな。
聖職者が治してくれたのか?感謝する。」
カイが目覚める。毒は完全にカイの体から消えたようだ。
先ほどまで渦巻いていた夥しいまでの斑点も
綺麗さっぱりと消えうせていた。
「しかし、どういうことだ?
聖職者が使える状態異常治癒は、
弊害治癒と上級弊害治癒の二つのはず。
まあ、深く考えても仕方ない、と、
聖職者よ、なぜにそのような悲しい顔をしている。」
私は泣いていたようだ。
カイさんが起き上がった時、本当に嬉しくて泣いてしまった。
「良かった、本当に良かった。
カイさん!カイさん!うわぁぁぁん!」
余りのことに私はカイさんに抱きついてしまう。
涙でぐしゃぐしゃになった顔を押し付けて。
「グ・・・カエレ カエレトイッタ
ニンゲン ハムカウナ オマエラ
コロサレル ソウイウ
ウンメイダ オマエタチハ
アノヒトニ アノヒトニ
コロサレロ コロサレテシマエ」
そういって先ほどエルクが倒したゾンビは起き上がり、
再びエルクに襲い掛かる。
エルクの攻撃を食らったとも思えない運動性を見せ付けて。
エルクは咄嗟に剣を抜き、応戦する。
「聖職者よ、俺を助けてくれた事は感謝する。
だが、何時までも殺すなといっていたのでは、
本当に我々が死んでしまうという事くらいはわかるであろう。
出来ればおまえの恩人だというのだから、
何とかして助けてあげたいのだが、あそこまでなった以上、
其れは不可能だろうな。幾ら聖職者であれ、其れも出来ない。
其れと、教えておこう、治癒魔法は、
腐敗したアンデッドと呼ばれる類のモノに関しては、
奴等の再生速度を遥かに上回る、外部からの攻撃ではなく、
内部に直接攻撃を仕掛ける概念武装となるのだ。
でも、俺は此れで殺せといってるわけではないのだよ?
おまえの役目は、治癒魔法でヤツを殺す事ではなく、
ちゃんと天国へと行き、死後を正しく送らせてあげるために、
成仏させてやることなんだ。解るかい?」
外部からではなく内部から直接的な破壊を行なう、
魂の原理を覆した概念武装。其れが治癒魔法の使い方の一つ。
そして其れはアンデッドを殺める為のものではなく、
死後を正しく送らせてやるためのモノ・・・。
「聖職者は単に人を助けてあげるだけではない。
こうして今も成仏できず彷徨っている魂を、
無事天国へと送り届ける事も聖職者としての仕事なのだ。」
カイは言う。
其れが本当の意味での聖職者としての『在り方』なのだと。
だから、今私がするべき事は、
仲間の支援でもなければ、ゾンビを殺めることでもない。
ちゃんとした場所へ、送り届けてあげることなんだろう。
「解りました・・・。」
私は立ち上がり、治癒詠唱を始めた。
「汝よ、汝は魂のあるべき場所へと帰らねばならぬ。
神の仕いとして我は汝を在るべき場所へと送還する。
魂よ、在るべき場所へと戻られよ。
治癒」
私の周りには無数の光の渦が出現する。
治癒の掛け声と共に其れ等は、
一瞬にしてアンデッドのほうへと向かう。
刹那、アンデッドは跡形もなく消え去ってしまう。
「すげえ、あれって敵にも使えたんだな。
知らなかったぜ、っと此れで一件落着かな。
だが、次は親玉が出てくるんだろうな。
闇の創設者がどうとか、って言ってたし。」
短剣を器用にくるくると回し、腰へと戻すエルク。
其の表情には何処か安心を秘めた色があった。
私はきっと此れでよかったんだろうけれど。
ちゃんと成仏してくれれば、いいな。
手を合わせて私は聖職者へと黙祷を捧げた。
刹那。三人の後ろには無数の蝙蝠らしき物体が現れる。
カイが言うには「ファミリア」という種類の蝙蝠型の化け物らしい。
「ち・・・!コイツが出てきたという事が、
恐らく親玉は・・・。」
カイの言葉と同時に、無数に沸いたファミリアの中心部に、
ひとつの大きな影が姿を現した。
「人間がこの館に何の用だ。
おまえたちが求めるようなものはこの館には、
存在しないと見受けるが、答えよ、人間。」
影の主はきちんとした言語能力が備わっている。
影の主は恐らく、モロクでささやかれていた
「ドラキュラ」なのだろう。
神話の中だけと思っていた其のドラキュラも、
今こうして私たちの目の前に現れる事になった。
どう太刀打ちすればいい?また成仏させることを選べばいいの?
「どうせ言ったっておまえなんかにわかるかよ!
悪いが此処で亡きモノとなってもらうぜ!」
エルクはそう言い放つと無謀にも単騎で突っ込もうとした、が
其処をカイに止められる。
何時になくカイの顔が真剣になっている。
其れと同時に大量の汗がにじみ出ていた。
「?
カイさん、どうした・・・?」
エルクは不審に思い、カイに問いかける。
カイは剣を持って身構えている。
ヤツの襲撃に備えて・・・。
だが其処には完全なあせりが見えている。
剣を持つ腕も何時からか、少し震えているようにも見えた。
「盗賊、こいつは見れば解るがドラキュラだ。
俺たちが居たブレイドバンカーの連中ですら、
このドラキュラに立ち向かって殺されている。
ヤツは本気で強いぞ・・・。
その気になればこいつひとりで世界の人間を殺せるくらいにな。」
何時になく冷静だったカイもこの時ばかりはあせりを見せる。
もしかすればブラッドレインの黒幕はドラキュラだったのだろうか。
エルクはカイの言葉で更に拍車がかかってしまった。
「って事はコイツが俺の両親を殺したかたきってわけだな!
カイさんだってコイツを討つ為に此処に居るんだろう!
だったら俺等二人で力を合わせればなんとか・・・!」
なんとかなればカイもあせってはいないだろう。
この三人でどうにも出来ないと悟ったからこそ、
カイは焦りを感じているのだから。
するとヒカルはエルクの前に行き、
ドラキュラの前までゆっくりと歩き始めた。
「お、おい!ヒカル!容易に近づくな!
殺されるぞ!」
エルクの言葉はもはや耳には届かない。
私は、言語が話せて知識が人間レベルであるのなら、
今度こそ、違った形で助けてあげたいと思ったからだ。
私は説得を試みた。それで済めば、
きっと無駄な血を流さずに済むと思ったから。
「ドラキュラさん。何を目的でこのような事をするのです。」
ドラキュラは答える。
「我の娯楽の為。ただ血を分け与えるだけでは、
少々面白みにかけたのでな。」
私は言う。
「人を簡単に殺めることに抵抗はないのですか。
自分の目の前で大切な誰かが死んでしまう。
そんなことを、考えたことはありますか?」
ドラキュラは答える。
「我に感情等は邪魔な産物。
汝よ、何を言いたいのだ。
率直に述べよ。」
私は答える。
「此処から引いていただけませんか。
街の皆も不安がっています。」
本当に、簡単に、率直にドラキュラに伝えた。
「其れは出来ん。
汝の言う事を聞き入れるわけにはゆかぬ。
どうしても、というのなら、
今すぐ此処で我と戦ってみるのだな。
結果は、いわずともわかっているがな・・・!」
其の言葉と共に黒い影が襲い掛かってくる。
其の光景はまるで、闇を全て支配しつくし、
自らを闇と同化させて異空間移動するようにして。
「ふざけるなよ!」
気づくとカイは私の目の前にいた。
剣を斜めに構え、ドラキュラの攻撃を剣で防ぐ。
刹那。
カイはドラキュラの攻撃を防ぎきれず、
剣を弾かれて壁にたたきつけられてしまった。
「ぐっ!流石に一筋縄ではいかんようだな・・・!」
「次は俺の番だ!覚悟しろよ!吸血鬼野郎が!」
そういってエルクは停止しているドラキュラへと斬りかかる。
其れは電光石火の如く、彼もまた、
闇を知り尽くしてるかのようにして、
ドラキュラが支配し、作り出した異空間の中を、
疾走しているようにも見えた。
「哀れな・・・。」
そういうとドラキュラは剣が突き刺さる目前で姿を消した。
闇と完全に同化してしまったドラキュラを肉眼で見つけることは
不可能となってしまう。
カイとエルクは一層にも攻撃に備える。
背後から襲われないように、と二人は壁に背中を預け、
剣を両手で持ち直し、虎視眈々と構える。
私は目を閉じた。
どうしてか、私には見える気がした。
心眼を使えるわけじゃないけれど。
どうしてか、私には見える気がした。
見えた所でどうにかできるわけでもないけれど。
闇の中を疾走するドラキュラの姿が脳裏に描かれる。
見つけた。おまえの居場所を見つけた。
さあ、覚悟しなさい。私がおまえを成仏させてあげるから。
「闇に支配された者よ。
汝は神の名の下に、汝を浄化しよう。
聖なる光に照らされ、心を清めたまえ。」
目を閉じ、両手をあわせ、無意識に詠唱。
ドラキュラはそれに気づいたのか、
ヒカルの目の前に現れ攻撃を仕掛けようとした。
刹那。
「遅い・・・!聖なる光!」
放射線にも似た其れ等は何処からか出現し、
ヒカルの両手へと光を集結させると、
一瞬にして其れは光の弾丸と化し、
ドラキュラ目掛けて放たれた。
スパッ
そんな音が聞こえた。
見るとホーリーライトはドラキュラの腹部を簡単に貫いていた。
「グゥ!たかが人間如きに!我を倒せるものか!」
ドラキュラは身軽にもヒカルと距離をとる、が
其の足取りは先ほどのゾンビにも劣っている。
カイは今だと言わんばかりに留めをさしにかかる。
「あの世で成仏するがいい!グランドクロ・・・」
技を放とうとしたところで何かの手がカイの目の前に現れる。
良く見れば其れはヒカルの手。留めをさすなという事らしい。
「聖騎士よ、少しまたれよ。無駄な殺生は、
騎士の名にあるまじき行為なるぞ。」
ヒカルはそんな事をいった。
今のヒカルはヒカルであって
ヒカルではなくなってしまっている。
カイは其の行動よりも、ヒカルの言動に唖然とし、
攻撃を止めてしまう。
其のスキをついてドラキュラは体制をたてなおし、
今度はカイのほうへと矛先を向け、刹那。
襲い掛かった。
「闇なる混沌よ、待たれよ。
汝が攻撃を仕掛けるというのであれば、
汝を神のもとへと、聖なる裁きを下す。」
異変に気づいたのか、
其れとも自分より力あるものと認めたのか。
ドラキュラは立ち止まり、声をかける。
「汝よ、出来るのであれば、早くとどめをさすがよい。
なぜ其れを行なおうとはしないのだ。
私には理解できぬ、人間の考えなど到底理解できぬぞ!」
ドラキュラは声を高らかにして怒鳴りつける。
黒く、其れでいてくたびれた漆黒のマントを振るわせて。
目を閉じたままヒカルは話を続ける。
「汝がしている事は間違っている。気づかれよ。
私の使命は汝のような異端者を殺めることではない。
正しき道へと戻してやるのが、私たち聖職者の宿命なる。
汝の在り方を私は否定はしない。」
ヒカルは淡々と話す。
言葉とはうらはらに、其処には一切の感情がこもっておらず、
人格が全くの別人へと変わっている。
カイもエルクも其れをただただ
唖然として見つめるしか出来なかった。
「そんな事を言って、我が隙を見せたときに、
先ほどのようにして我を殺すつもりではないのか?
人間の考える事は実に不潔なのだ。
自分が正しいのだと思い込み、我々のように、
人を殺す事でしか生きられない異物を、
ただの殺人行為だとみなして裁こうとする。
生きていく為には其れだけの犠牲が必要なのだ。
人間にとって其れが小動物であったりするだけで、
我等は其の犠牲が人間というだけなのだ。
自分が生きていく為の犠牲は裁かれず、
人が殺される事にだけは裁きが下される。
そんな理不尽な世の中だからこそ、
我々のような異端者は表に出られないというのだ。
解るか、聖職者よ、我の屈辱を。
解るか、聖職者よ、我の目的が!」
ドラキュラは語る。
エルクもカイも其の言葉に圧倒される。
正しい。誰もがそう思っただろう。
考えてみればそうだ。
人間とは生きていく為に動物や魚を食べて生きている。
其れが例え小さな生き物だとしても、同じ命を持ったモノ。
そしてこのドラキュラや、先ほどのゾンビは、
自分が生きていく為の犠牲がただ人間だっただけという話。
実に矛盾しているではないか。
そうだ、例え生きる為であったとしても、
何時しか人間は、自然の裁きを受けることになるのだ。
こんなにも、見境なく殺人行動を行なっているのだから。
「闇の混沌よ。汝の言葉、しかと理解した。
・・・良かろう。其処の盗賊、聖騎士。剣をおさめよ。」
いわれるままにカイとエルクは持っていた武器を直す。
「此れでよいか、闇の混沌よ。
我々は無駄な殺生は好まないのだ。
出来ればこういった話し合いで解決が出来れば、
良いと思っている。だが、其れは汝も同じなのではないか?
この後、汝が襲ってこようとも、我等は抵抗しない。
其れが我等の行動で示す証だ。」
そういってヒカルは両手を後ろに回すと、
がっしりと掴んで何も出来ないという事をドラキュラに証明する。
ドラキュラはゆっくりとヒカルの目の前まで移動する。
カイとエルクは剣を抜こうとする。
「剣をおさめよ、と私は言った。
二度も言わせるな。」
言われてカイとエルクはただ剣を抜けずに息を呑むだけ。
このままだと確実にヒカルは殺されてしまう。
だが、考えようによっては、
其の言葉全てが相手を油断させるためのものであって、
本当はヒカルも・・・。
「汝のような良き人間も存在するのだな。
聖職者よ、名を何と申すのだ。」
「私は神に従える神の子。聖職者ヒカルだ。」
ヒカルは答える。
自分を完全なる聖職者と認めて。
ドラキュラから殺気が消えうせる。
其れはヒカルもカイもエルクも感じ取れた。
其れまでに凄まじい殺気を放っていたというのが解る。
「ヒカルか、覚えておこう。
しかし、次に汝らの前に現れたときは、
迷うことなく血を頂くことにしよう。」
其の言葉だけを言ってドラキュラは姿を消した。
館のあちこちに存在した血痕も綺麗に消えうせ、
館には光が満ち溢れていた。
辺りを見回すと、本当に何事もなかったかのようにして、
ソレは其処へと存在していた。
「あれ・・・?カイさん、エルクさん。
そんなところにぼう、と立ってどうしたんです?
ふふ、二人共同じ姿で立っているなんて、可笑しいです。」
そういうと私は自然と笑っていた。
明かりがついたこの館の傾向を見て私は気が抜けたのだろう。
「ど・・・どうしたって・・・そりゃ俺等の方がききてーよ!
今の何だよ!つーか誰だよ!ヒカルなのかヒカルじゃないのか。
わけわかんねぇよもう。おまえが変貌したほうが、
よっぽどのミステリーじゃねえかよ!」
エルクは相変わらず怒っていたが、何処か安心した表情をうかがわせる。
「く・・・くくく!はははは!」
カイが突然笑い出す。カイも緊張が一気にほどけたのだろう。
「なんの事でしょう?私は何も覚えてませんけど。
そういえばドラキュラさんの姿が見当たりませんね。説得が、
通じたんでしょうか。お二人とも、何事もなくてよかったですね。」
そういうと私は依頼主へ報告しにいこうと二人に伝える。
何も覚えてない、とはいったけれど、
本当は全部覚えている。私がホーリーライトを詠唱し、
ドラキュラの腹部を貫き、其の後私がドラキュラを説得して、
ソレに納得してもらい、何処かへ姿を消した事も、
私はヒカルという魂の中でただ、何処からか現れたヒカルが、
代弁してくれたのをただただ見ているだけだったのだから。
プロンテラ宿屋。
「おっさーん、いるかー?あけてくれー。」
エルクは宿屋につくなりドアをドンドンと叩いて依頼主を呼び出す。
ギィ、と情けない音を立てて扉が開いた其処には、
普通の人間がたっていた。勿論依頼主なのだが、
あんな傾向を見てからか、普通の人間として認識できるのが、
とても素晴らしいものだと感じてしまっている。
「館の件、解決したので報告にあがりました。
此れからはモロクも今まで以上に栄える事でしょう。」
カイは依頼主にそう伝える。
依頼主はお礼といって沢山のZenyを私たちに手渡して、
何処かへいってしまった。
宿には私が借りた部屋があったので、取り敢えず其処へ三人で移動した。
「しっかし、凄かったよなぁ、あのヒカル。
マジ女神でも舞い降りたのかと思ったぜ。
きりっとしてて可愛かったよなー。」
エルクはいきなりそんなことを言い出した。
はっ、とエルクは自分でもとんでもないことを
言っている事に気づいて両手で口をふさいだ。
「はは〜ん。エルクさん。私にほれましたね〜?
どうしようかなぁ〜?えへへ〜。」
私はそういってまた頭をポンッと叩くと、
照れくさくなって顔を下に向けていた。
「・・・実に楽しかったぞ。
名をヒカル、エルクと言ったか、覚えておこう。
また何処かで会える事を楽しみにしている。
其のときには、立派な盗賊と聖職者になっていてくれよ。」
そういうとカイは言葉を言わせる間もなく出て行ってしまった。
私たちはただ其れを見送る事しか出来なかった。
最後の最後で、私たちを名前で呼んでくれた事。
其れがちょっぴり嬉しかった。
「さーって、また二人だな。
おまえもまだまだなんだから、とっとと修行するぜ!」
「はい、エルクさん!」
そういって二人はまたプロンテラを拠点として、
何時も通りの修行にへと励んでいた。